「萌太くんの笑顔って、嘘くさいよ」
そんなことを言ったのは、日も落ちかけんとする夕方のことだった。
美少年は、いきなり何を言うのだろうとでも言いたげな瞳で、ちらりとこちらを見る。それから、笑った。
「いきなり何ですか」
「笑うの、止めたら?」
「何故?」
「笑顔に意味なんて無いから」
いーたんの台詞を真似て、私はそう言う。特に意味はない台詞だったのだけれど、萌太くんはすぐさまその言葉の意味を理解して、微笑んだ。
まるで聞き分けの無い子供に言い聞かせるかのような口調で、優しい声が言う。
「僕はね、姉。意味があるとか無いとか、そんなことを考えて生きてませんから……ん。いや、というか、ぶっちゃけそんなややこしいことを考えて生きているのはいー兄だけなんじゃないですか?」
「でも、見ているだけで何だか歯がゆいんだよ、君の笑顔は」
「そうですか?」
「うん。何ていうか…無理して笑わなくてもいいのに、と思うときがある」
「ですか。別に無理なんてしていませんけれどね」
萌太少年はにっこりと笑うと、頬杖をついて下から私を見上げた。
「嫌なときにすら嫌な顔をしない、ってのは疲れない?」
「疲れません。疲れたら、疲れた顔をしますよ」
「それでも、笑うんだ?」
「ふふ。楽しく生きてれば、自然と笑みがこぼれてくるんです。そういうことにしておいてください」
「…いーたんの言葉じゃないけど…戯言だよね、それ」
「まあ、誤魔化そうとしていることは否定しませんけどね。そんなややこしく考えなくてもいいじゃないですか」
「だって…あ、ほら、また笑った。困った時くらい困った顔したらどう?」
「困った顔、してるじゃないですか」
「笑いながら、でしょう」
「いいんですよ、僕はこれで。別に無理してやっているわけじゃないですし…それに」
「それに?」
萌太くんは、ふと、死神の顔をして微笑んだ。
「たとえ嘘でも、みんなそれを理解していながら騙されてくれると知っているから、そうしてるんですよ」
「………」
「貴方もね」
にい、と歪む唇は、禍々しいのに酷く美しく映える。
目が合った。
「騙されてくれるでしょう?」
私は、答えなかった。
目を合わせたまま、呟くように言う。
「…君って凄く、嫌な人だね」
萌太くんは笑って首を傾けた。腹が立つくらいに優美な仕草だった。
「今更?」
アトガキ
この小説を書くときのファイルのタイトルは普通に「ヤな奴」でした(笑)
だってほら萌太くん、性格悪い性格悪いと連呼されてますから…こういう彼もいいなぁ、なんて。
誘惑されたい、と皆様が思うような萌太くんを書きたかったです(過去形)
…頑張りまっす…!