良い雰囲気を作れなくて…
甘い言葉の一つも言えない…

不器用で、ぶっきらぼう



二人っきりの時くらい、甘い言葉一つくらい言ってくれても良いと思う

たまには、甘い雰囲気を作って、雰囲気で僕を酔わせてくれても良いと思う

モテるくせに、不器用で、ぶっきらぼう


だけど………







しんしんと、降り積もる雪。

悴む手に息を吹き掛け、擦り合わせる

「こんな寒い時間帯に巡察だなんてさ、ツいてないよね…ホント…」

一番組の平隊士の誰かが、はい。とか、そうですね。とか、返事をくれる

ふと、憎たらしい副長様の部屋の火鉢を思い出す

それと同時に、火鉢を背に置き、文机に向かう背中が脳裏によぎり、何だか無性に恋しくなった

ちょっと悔しい



「…早く火鉢にあたりたいなぁ…」

ポツリと呟いて、もう一度悴む手に息を吹き掛ける


このまま、何にも起きないで、不逞浪士とも遭遇しないで…って、それはとってもつまらないけれど、でもとにかく早く屯所にもどりたくて…

僕は少し早足で雪が降る夜の京の町を歩く



身体に感じる空気が冷たくて
雪は止まなくて

でも心の中で文机に向かう背中を思い出すと、どこか暖かくて…それが悔しくて…



途中、酔っ払い同士の言い合いに遭遇したけれど、時間を掛ける事なく、早くに屯所に着いた


屯所に戻ったらすぐに、僕は隊服も脱がず一目散に目的の部屋へと駆けていく

途中通った広間からは楽しそうな声が聞こえて、呼び止められたけれど、そんなの無視


目的の部屋へと辿り着いて、勢いよく襖を開く

バンッと、大きな音をたてて開いた襖と同時に

「土方さーん!開けますよー。巡察の報告に来ましたー」

と、声を掛け、想像通りに土方さんの背中に置かれ、それを暖めている火鉢へと滑り込む


これまた想像通りに火鉢を背に置き、文机に向かう土方さんが、「てめ、…総司!襖を開ける前に声を掛けやがれ!」とかなんとか、お説教してたけれど、「はいはい」って、適当にあしらいながら火鉢に手を翳す


掌からじんわりと、温もりが伝わってくる

悴んだ指先も、氷が溶けて行くようにじわじわと柔らかくなった


はぁ、と、溜め息をつく

すると、文机に向かって座っていた土方さんが、「ったく…」って呟きながら腰を上げる


羽織ってた半纏を脱ぎ、火鉢で暖をとる僕に羽織らせた

土方さんの顔を見上げると、何故か土方さんが不思議そうな顔をしていて

「何だ?外は雪が降ってんだろ。今夜は冷えるからな」

と、言葉を紡いで、また文机に向かう


土方さんの背中を見つめながら、自分の背中から感じる暖かさが嬉しくて恥ずかしくて…
半纏に鼻を埋めると、ふわりと土方さんの匂いがした


この人の、こうゆうところが狡い…

悔しい
悔しいけれど、落ち着く匂い

決して言葉になんかしてあげないけどね



「あ、そうそう。異常なしですよ。途中酔っ払いの言い合いに遭遇しましたけど、特に大きな事にはなりませんでしたし」

今夜は穏やかでした。と、赤くなる顔を火鉢の温もりのせいにして、照れてしまう気持ちを報告の話で誤魔化した


「そうか、ご苦労だったな」

って、僕に背を向けたまま返事をする


え?
つまんないな…
それだけ?もっとなんかないの?

ぶっきらぼうにも程があるよね
折角暖まったのに…急に冷たくなった気がする…



「良いですよねー、副長様のお部屋には火鉢があってー」

って、悔しいから嫌味を言ってやる

「平隊士どころか、幹部の部屋にも火鉢が無いってどういう事です?」

「あぁ?火鉢を各部屋に置けってか?」

返事をしながら、ゆっくりと振り向く

振り向いた顔にドキリとした


自分の膝に顔を埋めながら、「まぁ…」と、返事をする


嘘。嘘だよ、要らない

部屋に置かれちゃったらこの部屋に来る理由が減っちゃうから…

だから、火鉢なんて要らない…




カサカサと、布が擦れ合う音がして、土方さんが動いたのが分かる



すると、背中がずしりと重くなり、土方さんの匂いを強く感じた


「要らねーだろ、馬鹿」

耳元で土方さんの声が聞こえて、やっと自分が背後から土方さんに抱き締められている事に気付く


「い、要りますよ。だって寒いじゃないですか!」

顔を上げれない、否、上げたくない
赤い顔を見られたくない
この人には見せたくない
悔しいじゃないか


「いや、要らねーな。」

土方さんの腕に力が籠る


「寒いなら此処に来れば良いじゃねーか。火鉢も半纏も貸してやるよ」


耳元で響く、土方さんの低く心地好い声…


あーあ、もうこの人は本当に狡い…


悔しいし、腹立つし、憎たらしいし…



不器用でぶっきらぼうで、甘い言葉も言えない、雰囲気も作れない

なのに然り気無い優しさや、たまに囁かれる何気無い言葉に、僕は振り回される…


そして、この人が本当に好きだと深く思うんだ…




「仕方ないですね、またこの部屋の火鉢にあたりに来てあげますよ」

寂しがり屋で、けちん坊な土方さんのために。


僕は天の邪鬼で皮肉れ者だから決して言葉になんかしてあげない


「ったく…てめぇって奴わ」

小さく笑った土方さんの声が響く







良い雰囲気も作れなくて…
甘い言葉の一つも言えなくて…

不器用でぶっきらぼう

だけど……

たまに囁かれる言葉が心地好くて、然り気無い優しさが居心地よくて…それが僕の好きな人




僕もこの人も、もしかしたら似た者同士なのかもしれないね



















それがの好きな










土沖/こななさま