死神である少年は相も変わらず微笑んでいた。それ自体は軋識にとって普段となんら変わりのないただの現象でしかなかったがしかし今日に限っては少し勝手が違うように思えた、何故なのかと考えれば恐らくそれはその笑顔が普段の彼が浮かべるものとは違って人間らしさの一切が削除された死神のものであったからだろう。彼がその笑みを浮かべるたびに自分はたまらなく不愉快だった、爪の先から髪の一本一本に至るまで総じて体中の細胞全てが反応し恐れ慄く感覚にはいつまでたっても慣れることはないし慣れたくもない。背筋にわずかに残った冷たさを噛み締めるように死神を睨めば余計に笑みが歪んで見える。ああ駄目だ、普通の人間がすればひどく醜く映るだろうその笑みはしかしその死神が浮かべると異常に美しく映えてだから気になる気になってしまう。止めて欲しい殺してしまいたいそう強く。綺麗なくせに綺麗なまま歪むものなんて許されていいのか?許されるはずがない歪みは美しさとは相容れないものだ今まで自分が生きていた世界ではずっとそうだった。そうだった、はずだった。

こんなにも。

世界が。

彼のその歪んだ笑顔を正すために、ぎちりと軋んだような錯覚を覚えてしまうのは許されるか?

 

軋む。

 

「何が?」

 

世界が。

 
 

「     」

 

自らの血で濡れた死神が裂けた指先を舐めながら何かを言う。ああそうかこの死神は自らの手で生を止めるつもりなのか。石凪としての生を。彼の中にある人間がそうしろと叫んでいる。大事なものを守ると決めた彼の強さがそう叫んでいる。泣き事のように叫んだその想いはきっと彼を蝕むというのにその予感すらも喰い殺して。仕事と称されたその任務をさらりとこなしながら死神は言う、自分は人形であると。だから踊るしかない、大事なものを守るために。

 

けれど見ていろ、と、死神は笑う。

 

「見ていればいい」

 

哀しい決断をその小さな体のどこにしまったのか。引きずり出して潰してやりたいと思いながら軋識は強く歯を噛みしめた。殺してやりたい、この死神を。けれどわかっていた、死神はきっと自分には殺されないだろう、死ぬとしたらきっとこの死神が自らの手で殺すのだ、幼い子供が蟻を殺すように自らを殺すのだ。彼はそんな悲しさのことなどきっと理解しないけれど。ああ愚かしいものがこんなにも美しいとは。殺してやりたい。悲しきはこの死神と自分をつなぐものが殺意ではなかったということだろう。殺せないが殺したい。

 

死神。

 

そうだ見ているといい、

 

「あの連中が、人形遊びに飽きるころには」

 

 

僕らは、もう、人形ではないから。

 

 

 

 

 

 

笑う死神に死相が見えた

 

お前の強さを、俺は殺したい。そんな強さは、存在していて欲しくないから。