希望と現実



リンがリビングへ向かうために階段を降りていると、ガチャリ、と玄関の扉が開いた。
扉の向こうから現れたのは、レンだった。

「おかえりー。レン、今収録終わったの?」
「・・・ただいま。収録もアップも終わったよ。」

リンは嬉しそうな顔で話しかけるが、レンには少しもそのような様子がない。
むしろ不機嫌そうに見えて、リンは首を傾げた。

「今回はカイト兄とがくぽ兄と一緒だったんだよね?」
「・・・そうだけど。」
「収録終わって嬉しくないの?」
「・・・・・・嬉しくないわけじゃないけど。」

視線を合わせないようにしながら答えるレンを、しばらくじっと見つめた。

「ユニット名ついてたよね、確か?」
「・・・『バナナイス』のこと?」
「もうあがってるんだよね。」
「それ聞いて・・・ってまさか!!?」

はっとしたように目の前の少女を見る。

「それならチェックしーちゃおっと☆」

リンはにっこりと笑って、パタパタと去っていった。
パソコンの置いてあるリビングへと・・・。

「っ!おい、こらリン!!ちょっと待て!!」

慌てて靴を脱ぐと、レンはその背中を追いかけた。



「『バナナイス』で検索、っと・・・」
「リンっ!!!」

レンが叫ぶように言うが時すでに遅し。
早速見つけたようで、リンは新曲を見始めた。

「へぇ・・・マスターにしては珍しい感じの曲だね。カイト兄もがくぽ兄もかっこいい。」

感心したように、リンは感想を述べる。

「コメントの評判も良いみたいだし!でもレンはまだ歌ってないね?」
「・・・・・・・・・。」

レンは無言だった。

(おかしいな・・・別に聴かれるの嫌な曲じゃないと思うんだけど。)

そう思いながら首を傾げた直後、レンの歌声が流れてきた。
少し高めのボーイズソプラノが。

「・・・・・・・・・か、可愛いっ!!!」

思わずリンはそう呟いていた。
カイトやがくぽとの声のギャップがあるためか、どこか一生懸命さを感じさせる歌い方のためか・・・
歌詞や曲調は確かにかっこいいのだが、レンが歌うと何故か可愛く感じられた。
それはリンだけではないようで、コメントにもだいたい似たような感想ばかり流れていた。

「何でだろ・・・カイト兄やがくぽ兄だとかっこいいのに、レンだと凄く可愛いよ!?うわぁ、これちょっとキュンとくる!!」
「・・・だから嫌だったんだよ、聴かれるの!!」

半ばヤケクソのように、レンは唸った。

「どうせ俺は少年声ですよ!鼻声ですよ!!滑舌悪いですよ!!!」
「えー?私は好きだけどな、レンの可愛い歌声♪」

背を向けて拗ねるレンに後ろから抱きつき、リンは笑う。

「・・・・・それじゃ意味ないんだよ。」
「ん?何か言った?」

ぼそりと呟いた声は、はっきりとは聞こえなかったようだ。

(今回こそは「かっこいい!」って言われるように頑張ったのに・・・結局また「可愛い!」かよ。)

「好き」と言われて悪い気はしなかったものの、やはりレンは悔しく思うのだった。






















■またしてもキースさんから頂きました。鼻血でそうなくらい可愛いレンくんです。
いやぁ声も可愛いけどそれがコンプレックスになっちゃってるレンくんはさらに可愛いですねっ
嫌がられるの招致で「可愛い可愛い」言ってやりたいなあ……!!

キースさんありがとうございましたあああああ!!