ねえ、近藤さん。近藤さんは怒るかな?
僕は最初から最後まで、ただの嘘つきだったんです。
本当は、あなたが大事に思い、大切に守ろうとしているほとんどのものが、僕にはただのガラクタにしか見えませんでした。
それでもそのガラクタを必死に見つめ続けることができたのは――そのガラクタを見つめる近藤さんのキラキラした瞳が綺麗だって、そんなことを思っていたからで。
だから、ごめんなさい。
騙すみたいなことをして。
嘘をつくことばかりが巧くなって、そんな自分に恐怖を覚えて――それでも僕は、努力するその方向がわからなかったんです。
ねえ、近藤さん。
――僕はただ、どこまでも“貴方の弟”でありたくて。
そのことに必死だったけれど、でも、ずっと申し訳なくて、たまらなくて、痛かった。
近藤さんはきらきらとその明るい瞳で、僕を綺麗な子どものように扱うけれど、そうじゃない。
近藤さんの瞳に移る僕は綺麗な子どもでも、ほんとうの僕はそうじゃない。
だって僕は生きているふりをしているだけで、生きている実感なんて持てたことがなかった。自分の意志なんて、持っていなかった。
僕はただ、貴方に捨てられるのが怖かっただけだ。
「お前は間違っている」と言われるのが――嫌われるのが、怖かっただけだ。
その綺麗な瞳に、自分の姿が映らなくなることを、恐れただけ。
汚い僕は綺麗な貴方に嫌われたくなくて必死だった。
不器用な僕は、近藤さんの瞳の中じゃなきゃ上手に呼吸すらできはしないんだ。だから必死だった。必死にあなたを追いかけて。
…ああ、なんだか不思議だな。
あれだけ大きいと思っていた背中なのに、いつの間にか、背だって僕の方が伸びてしまって。あなたがあまりにもひたむきに夢を見据えるものだから、僕も一緒になってがむしゃらに走って、走って――
ついにはこんなところまで来てしまったんですね。
ねえ、近藤さん。
武士になれて、嬉しかったですか。
近藤さん。
幸せだったって、笑ってくれますか?
近藤さん。
…こんどう、さん。
「(――嗚呼、)」
あなたがいなくなって、呼吸にすら喘ぐ僕は、きっと人間ですらなかった。
最後まであなたの理想を理解できずにいたけれど、それでもあなたの下で戦えた、そのことだけは、僕の誇りでした。
あなたはもういないけれど、あなたの足跡を必死に守ろうとしている土方さんがいる。
ねえ、近藤さん?僕はようやっと、僕の眠れる場所を見つけられたような、そんな気持ちすらしているんです。
「(僕はいま、あなたの剣になる、)」
この血を流すためだけに呼吸する。
それじゃあ行こうか、沖田総司。
最初で最後、僕の意志で――
最初で最期の、僕の産声を、響かせよう。