最近、総司とセックスばかりしている気がする。

「………」

恋人と呼んでもいい関係になってから、まともにこいつとコミュニケーションをしていない。
キスをしてはセックス。手が触れてはセックス。

…まるで盛りがついた犬のようだ。
動物ではないのだから、もっとこう、何か、……それが何なのかは自分でもわからないけれども、何かがあってもいいのではないかと思う。だがしかし素直ではないこいつのこと。どうにも甘い雰囲気になったことがない。

口説けば赤くなる。けれどもその後、甘い言葉などそっちのけですぐにセックスに雪崩れ込んでしまうのだ。
俺に口説かれるのが気恥ずかしいのかもしれないが、総司はすぐにセックスで誤魔化してしまう(そっちの方が恥ずかしかろうと思うのだが、その方が総司には耐えられるらしい。変な奴だ)。

「………なあに?土方さん、人の顔をじろじろ見て」

だから今回は流させず、たまには恋人らしい交流でもしてやろうじゃねえかという気持ちで、総司をソファに呼んだ。

「あー、なんだ」
「うん。なんです?」
「いつも俺ばっかり好きにしているからな。たまにはお前の好きにしていいぞ」
「……、……、……。うん?」
「だからだな」

とりあえず近くに来た総司を腕の中に閉じ込める。
最初はこれだけでもずいぶんと警戒されたものだが、最近は、こうしてもあまり怯えなくなった。セックスに余裕ができてきたためだろうと俺は分析している。
総司は、もぞもぞと俺の腕の中で心地いい体勢を探し、結局俺の肩に手を置き、少し身体を離す――表情が見えるように、だろう――そういう体勢に落ち着いた。

「えーと、それはつまり、僕に男役をやらせる気になったと」
「違え」
「なーんだ。残念。……じゃあ、どういう意味です?」

僕わかんないなあ、と、言うこいつの口調に甘えがない。

…そうなのだ。確かにべたべたくっついてくるようにはなったが、総司はあまり俺には甘えない。もちろん性行為中はすり寄ってきたり抱き合ったりもする。するけれども、それは“快楽”を目的とするもので、恋人に甘やかされたいという欲求からくるものではないのだ。
それはそれで妖艶で、煽られもするのだが、“コイビト”としては面白くない。どちらかというとセフレに近く思えてしまう。

「(愛はあるんだがな、)」

それを表現するのが苦手なのだ、こいつは。
たまには素直に甘えてほしいという、こちらの気持ちなどきっと想像もできないだろう。

「俺にしてほしい事をなんでも言え」
「してほしいこと、ですか。僕が土方さんに?」
「ああ」
「言えば聞いてくれるんですか」
「ものによる」
「ふうん……どういう風の吹き回しかなあ。土方さん、ついに浮気でもしました?」

にやにやしながら、そんな風にからかってくる。

「違うに決まってるだろ、馬鹿」
「ふうんそう?ま、されたところで気にしないけどね、僕は」

このままだったらいつもの通りだ。今回したかったのは、そういうことじゃない。

「お前だけだよ、総司」
「………」

俺は試しにそう、総司に囁いてみた。目を見て、まっすぐと、冗談ではない口調。

総司は目を丸くしたあと、眉をひそめた。不快そうな顔立ちだ。
…不快は不快でも、俺の言葉が不快だったのではない、内心照れてしまった自分自身に対してのものだ。
照れ顔すら素直に見せてはくれない。総司がそういう男だってことは知っている。

「こッ恥っずかしい。よくそんな台詞真顔で言えますね」
「真顔じゃなきゃ茶化すだろ、お前は」
「舐めてもらっちゃ困るな。真顔でもまぜっかえしますよ、僕は」
「自慢するなそんなこと」
「……でも急にそんなこと言うなんて、やっぱりなんだか、…うん、…」

総司は、“何を言っていいのかわからない”とでも言いたげな間を投げてよこした。微妙に視線がそれている。
――やはり照れている。
顔に出さないように集中するから、普段のように口達者ではないのだ。

「いつも言葉にしないからたまにはと思ってな」
「………土方さんがそういうこと言うのって、僕からしたらちょっと気持ち悪いんですけどね。素直すぎて」
「仕方ねえだろ、俺はお前に惚れてるんだ」
「………」
「言葉にするのは柄じゃねえが、お前を愛してる気持ちに変わりはねえよ」

今度こそ、総司は素直に顔を赤くした。
それも、弱ったような顔をして――

………。
…………なんだ。
こんなことで簡単に弱みを見せるのか、こいつは。
今まで試してこなかった自分が馬鹿のようではないか。

「なんだ、かわいい顔して。お前意外と言葉攻めもアリか?」
「……ッおっさん臭い台詞…っ」

どうしたことか今日は憎まれ口すら可愛い。
素直ではないことは知っていたが、それにしてもこれは――ずいぶんと初心な反応だ。
いつもためらいなく俺の性器を口に含み、妖艶な笑みを浮かべているこいつと、同一人物とは思えない。

照れはするけどいやじゃない。もっと言ってほしいけど、でも、照れるから止めてほしい。
そんな顔だ。
赤くなっているけれど、無理に「つまらなさそうな」顔を作ろうとするから、逆にそのアンバランスさが際立ってしまう。

「――お前、ほんとに可愛いな」
「やめてください。斬り殺しますよ」
「なんで俺が止めなくちゃいけねえんだよ、お前がかわいい反応するのが悪いんだろ」
「…、き、気持ち悪いですって男に“可愛い”とか」
「意外と初心な面を発見したんだ。堪能させろよ」
「やだ」
「総司」

覗き込もうとすれば、えらく強引な動作で首ごと逸らされる。それでも何も言わないでいれば、それはそれで沈黙が気になるらしい。すすっと視線が戻ってきて、それはそのまま下方へ逃げていく。

「…いつも僕のこと可愛くない、我儘ばかりで、頑固で、って悪口ばっかり言ってるくせに」
「………」

思わず微笑んでしまいそうになった(まったく、鬼と呼ばれた俺が。らしくもないことだ)。
逆効果にしかならないかわいらしい愚痴ごと、唇をふさいでやりたくなる。

「確かに憎たらしいところもあるが、照れてるお前は素直に可愛いよ。意外な弱点ってやつだな」
「調子に乗らないでほしいんですけど?」
「無理だ。嫌がるてめえの顔が楽しい」
「――さいっあく…」

そろそろと距離を取ろうと動くので、手を掴んで引き寄せる。
総司は強気に俺を睨み付けてきた。

「愛してる、総司」
「も、…ッ恥ずかしさに鳥肌立つんで、やめてくださいって」
「お前が面白い反応するからだ」
「……酔っ払いのセリフみたいですよ、それ…!」

首筋に顔をうずめれば、うっすらと総司のニオイがした。触れた先の肌が熱い。そういった総司の“らしさ”は、不意に驚くほどの幸福感を引き連れてくる。

「好きだ」
「…ああもう、そんな何度も言わなくても聞こえてますってば…そうやって僕の機嫌をとったって、何も出ませんからね」

別に機嫌が取りたくて言ってるわけではないんだが。…まあいいか。
まんざらでもないくせに、俺の目にはそっけなく逸らされた総司の頬しか見えない。どうやら本格的に拗ねてしまったらしい。

どうやって機嫌を取ればいいのかと、久しぶりに付き合いたての高揚感を思い出した俺は、さっそく引き寄せる腕に力を入れて総司のこの羞恥心から籠絡にかかることにした。