「だから離せって、ばか!変態!死ね!」

普段ペラペラと口ばかり回る男にしては、酷くバリエーションの削がれた文句の数々に笑いがこらえきれなかった。




P2大作戦




猫は捕えがたいものだと相場が決まっている。俺に不可能はないとは言え、それでも捕まえるに多少は時間がかかった。

「手間をとらせるな」
「…ああもうあんたってほんとにムカツク…!」

腕をねじあげられ、壁に押し付けられて、強くこちらを睨む猫の頬は赤い。
…というのも、腰を押しつけられているのがその原因だ。ぴたりと、腰と腰をすりあわせるようにしているから、どうしてもそこが気になるらしい。

俺を睨みながらどこか弱ったように瞳を揺らし、離せ離せとじたばたする沖田総司の蒼白な顔は、見ていてなかなか面白い。

「どうしてあんたっていつも僕の気持ちとか考えずに変態なことばっかりするわけ?!」
「何故俺が貴様なぞの心情を斟酌してやる必要がある?自分の所有物なのだから好きに扱って何が悪い」
「僕はあんたのモノじゃない!」
「ふん、相変わらずかしましい猫だ。せいぜいそう強がっていろ」

お前が俺のものであることなど、もう決定しているも同然なのだからさっさと認めてしまえばいいものを。
…まあ、そこが愛らしいといえなくもないわけだが。

「貴様のその悔しげな顔は、悪くない」
「…っ…だから!口説きながら堂々と腰を撫でるなついでに触るな離れろ変態!」
「そうはいかんな」

今日は目的があるのだから。そう言うと、わずかに丸くなる瞳が、訝しげに俺を見た。
嫌な予感しかしないんだけど、と、ひきつった笑みのまま問うてくる。

「目的って、…つまりその目的成就のためには、僕をこうして捕まえる必要があるってこと?」
「そうだ。不知火と勝負中なのでな」
「勝負?何の?」
「希少価値の高い、誰も見たことがないようなものを、先に用意した方が勝ちと言うルールで勝負をしている」
「……、なんか、話がよめないんだけど…ようは珍しいものをとって来た方が勝ち、ってこと?」
「そうなるな。誰も見たことが無いものを、だ」
「それでどうして僕を捕まえる必要があるのさ」
「知れたこと」

ここまで言ってもわからんとは、呆れたものだ。


「誰も見たことのない珍しいものと言えば、貴様の下着以外にあるまい」
「………。………。……はあ?」




沖田は、間の抜けたような顔をしている。
口まで開けて、まるで鳥の雛のような顔だ。

「修学旅行でも剣道部合宿でも貴様は下着姿を披露しておらず、裸も見せてはいない。体育の着替えですら人知れず済ませている。…まあ、俺以外の人間に肌を許さんというその姿勢は評価してやるが」
「………」
「そんな貴様の下着であればこそ、この希少価値が認められるというものだ。不知火もここまでレアなものを手に入れはすまい」

沖田はまだ間の抜けた顔をしている。あっけにとられた、とはこういう状態を言うのだろう。

「(まあそうだろうなと予測はしていたが)」

ある意味好都合なので当然のようにベルトをはずそうと指を、



「しんっ……………じられないこの変態!」


と。
異様な溜めを間に挟んだ文句のようでその実悲鳴な奇声を上げて、沖田がじたばたした。
ベルトに引っかけた指がズボンの生地とこすれて痛い。

ともあれ。
思惑通りに、沖田の中の何かのゲージが振り切れたらしい。顔が赤い。
こういった表情は常には見られないものだ。たいそう興味深い――沖田は、この俺をしてゾクゾクさせる、虐めたくなる目をしている。
舌舐めずりを堪えている段階で、沖田の口から「ひぎゃあ」と妙な悲鳴が上がった。

「ちょっと、た、たっ……なんで勃…!」
「貴様があんまり暴れるから虐めてやりたくなっただけだ」
「ますますもってただの変態だよね君!」
「何とでも言え。貴様の下着さえ手に入れば俺は別に構わん」
「ぎゃー!触るなっ、触れるな離れろ変態!変態変態変態、へんた、ッ!」
「ついでに言えば」

するりとズボンの下に入りこんだ手のひらに、思いっきり沖田の身体が硬直した。

「不知火との勝負ですら、貴様を押さえつける単なる口実なのだがな…?」
「…っや、だ…!」

腰を密着させ、壁に押し付けた状態では逃げ場など無い。沖田は、本当に怯えると固まるしかできないという弱点は俺だけが知っている。

「か、…風間…ッ!」
「脱げ。でなければ犯す」
「ぜったい嫌…ッんぅう…っ」

下着の上から尻を撫でる。形が良い小ぶりの尻だ。柔らかくも無いが堅くも無い。
肩に顎をのせながらごそごそとベルトを抜き取ってやる。
沖田は俺の意図に気付いて、慌てて俺の指を掴んだ。

「邪魔だ、指を離せ」
「死ね!」

かみ合わない会話もいつもの事だ。

どうせ生意気しか言わない口だからふさいでしまえばいいとも思うのだが、この生意気な口調がだんだん泣きごとに変わっていく過程が面白いから敢えて放置している。
本来なら、「しね」の口調が弱って震える頃が食べ頃なのだが…

「――まあいい」

悲鳴や悪態すら心地よく聞きながら、ズボンの隙間に差し入れた手を動かす。
ぐいと横へ引き延ばして隙間を大きくし、上から覗き込んだ。

「……や、どこ見てんのさ馬鹿ッ」
「ほう、貴様はトランクス派か。随分脱がせやすいものをはいている…こうなることを見越していたのか?なかなか愛いことを」
「そ、んなわけないでしょ…っ、というかどこから来るのあんたのその妙な自信は」
「案ずるな。貴様がこの俺に惚れていることなど俺はとうに見抜いている」
「言っとくけど僕が君に抱いているのは恋心じゃなくて殺意だから!変な誤解しないで!」
「いいからお前は黙って俺に身をゆだねろ。照れることでもあるまい?」
「照れてない!というか!会話になってない!」

まったくだ。

「貴様が諦めればすむ話だと言うのに」
「…や…ッやだもう、離して」

腰をつきあわせ、好き勝手に尻を揉まれているのが恥ずかしくて仕方が無いらしい。
なんで勃ってるの、それ押しつけないでよ、と泣きそうな声で言われ、「貴様がやけに色っぽい顔を見せるからな」と答えれば、ぎゅっと俺の肩を掴む。

「…う、う…この変態!もうやだ…っ」
「そんなに虐めて欲しそうな声を出すな、その気になっても知らぬぞ?」
「断じてそんな声は出してない!もうほんと君いい加減にしたらいいと思うんだけど?!」
「残念だが」

いい加減にするのはお前の方だ。

「ぁっ、…!」

胸の突起を指でつつけば、それだけでやけになまめかしい声が漏れる。
高校男子の理性を奪うに十分すぎるほど色のある声だ。
…まあ、俺はこの程度に煽られる程お子様ではないが、それにしても沖田のこの無自覚さはたいへんに興味深い。

クラスでもこいつを妙な目で見ている輩は多いというのに、それにまるで気づかずに俺ばかりを見ている。

「…面白みのない下着だな。次はもっと刺激的なものをはけ」
「へ?って、ちょっと!何でいつの間にか脱がされてるの?!」
「鬼の力をもってすればこの程度造作もない」
「何を男前な顔で情けの無いこと言っ……っていうかズボンはいてるのにそこからパンツだけ抜き取るとかどう考えても変だって!」
「耳元でピイピイやかましい。黙っていろ」

目的のものは手に入れた。
小奇麗で、まるで買いたてのようなそれで、どうも使い込まれた感のない下着だ。

「(…まさか本当にこうなることを見越していたのではあるまいな?)」

くるくると指でもてあそんでいたら、真っ赤になった沖田が割と本気で俺の脚をけり上げた。

遠慮のない蹴りだ。
さしもの俺でも顔をしかめる程度に痛い。

「………やはり貴様には躾が足りんようだな」

モノを手に入れたのだから解放してやろうかと思ったのだが、見事にその気をそがれた。
首に噛みついてやると面白いくらいに弱った悲鳴があがる。

「そうか。そこまで言うなら中身も可愛がってやろう」
「な、い、…い、言ってないし、馬鹿じゃないの…!」

いまさらどう抵抗しても無駄だ。もじもじと動く足を撫でれば、快感に馴染んだ瞳にすぐさま涙が盛り上がる。

「風間、…ぁ…!」

やはりこいつの悲鳴は愛い。
俺は上機嫌になったまま、沖田を押し倒した。