忙しい時期に限ってこの男はあらわれる。
「斎藤くん。お団子買って来たんだけど一緒にどう?」
うっすらと笑顔を浮かべながら唐突に部屋に入ってきたのは、最近思いの通じ合った一番隊組長だ。木と木の触れあう軽い音とともに室内に光が入り、視覚刺激だけで総司が障子を開けたらしいことがわかる。この男は「恋仲にある」ということは、何時いかなる時でも勝手に部屋に入っていい権利を有するとでも考えているのか、最近とみに遠慮がない。
あふれかえる程の書類の谷のすき間から視線だけをやって、あまりの惨状に目を丸くしている総司を見た。
「悪いが」
一言で十分伝わるだろう。今自分は、ものすごく、忙しい。机の上の書類の多さ等客観的に見ても一目で「忙しい」と知れるはずだ。
視線もやらず硯に筆をつけ、書類に目を通す。
「もしかして相当煮詰まってるのかな」
「見ての通りだ」
「ふうん。…そっか、邪魔したね」
わずかに不満げな声で、総司はそんなことを言う。
「平助とでも食べてこようかな」
「ああ、そうしてくれ」
「………」
足音もたてず、気配だけが背後に移動した。
なにやら嫌な予感がして、顔を上げる。
「…なんだ」
「あのさ。僕、寂しいんだけど」
わかっている。
最近あまり接触していない。総司は意外に寂しがりだ。
「そう言われても、反応に困る」
「それが終わったら、僕に時間を割いてね」
「さあな」
「寂しいんだって」
「大の男が寂しいなどと簡単に口にするな」
「………」
無言のまま、総司は出て行った。
やれやれと思いながらも、俺は追いかけなかった。