Absolute zero
パストゥーヤ王国の国王が住む城の中には、「報告書作成室」という名の部屋がある。
これは、国王の子ども達が使うための部屋だ。
父親に任された仕事を終えた後で、起こった事の詳細を文書として残すことになっている。
その作業をするために、そして、作った文書を保存しておくために使われているのがこの部屋だった。
部屋自体はそこそこ広いのだが、ほとんどを棚が占めているため、全くそんな感じはしない。
人が3、4人いれば、動きにくくなってしまうだろう。
そんな部屋の中に、2人の人間がいた。
現国王、ゼニウスの次男のベインと、長女のシャインだ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・]
何故か知らないが、重苦しい沈黙が部屋を満たしていた。
「・・・シャイン」
「何だ」
「これは何ですか?」
ニコリと、表面上だけの笑顔を浮かべて、ベインは持っていた紙を机の上へと置いた。
「報告書だが?」
こちらはニコリともせずに、むしろ不機嫌さを全面に押し出した表情で答える。
「私が言ってるのは、内容の事ですよ。それくらいのことも分からないんですか?理解力がないにも程がありますね、全く・・・」
盛大な溜息つきで言われ、シャインの顔がひきつった。
「・・・それは悪かったな。だが、私は間違った事は言っていないぞ。自分の聞き方が悪かったと反省する気持ちはないのか?相変わらず余計なプライドだけは高いようだな」
バチバチッと、火花が飛んだ。
ように見えた。
「・・・言いたい事はそれだけですか?」
「・・・とりあえずはな」
「ならば話を進めましょう」
どうやらこの2人の間には、謝るという行為はないらしい。
「この報告書は、何故こんなに白い部分が多いんです?詳細が詳細になってませんよ」
「その方が簡潔で見やすいだろう」
「これは見やすさを求めるものではありません」
間髪入れずにベインは言う。
「いちいちうるさい奴だな。私はこういうのが苦手なんだ。嘘はついてないんだからいいだろう」
シャインは足を組むと、面倒臭そうに答えた。
「・・・はぁ」
またしてもベインは溜息をつく。
「面倒だからと言ってここまで手抜き出来るものなんですかね?それなりに細かく項目が作られているんですから書く欄はかなり少ないはずです。全項目箇条書きで1つのみだなんて私には真似したくても出来ませんね。戦闘に集中力使いすぎて何も覚えてないんじゃないですか?父上も酷いですね私にこれをどうしろと言うんでしょう」
「今更文句を言うぐらいなら頼まれた時点で断れ。引き受けられたこちらもいい迷惑だ」
「ここまで酷いとは思ってなかったんですよ。仮にも1番任務を任される事が多く、状況判断に優れているはずの人物が」
「喧嘩売ってるのかこの嫌味男が!!!」
シャインの中の何かが切れたようだった。
「さっきから黙って聞いていればネチネチネチネチと・・・お前は私を馬鹿にしにきたのか!?そのために引き受けたのか!!?」
「冗談でしょう?私はそこまで暇じゃありませんよ。こんな面倒な事、父上かアルフに言われなければ引き受けませんよ。とっとと終わらせて自由な時間を手に入れたくて仕方ありません」
「だったらごちゃごちゃ文句を言うな!これでいいだろうが!?」
「それは駄目です」
きっぱりとベインは言い切る。
「引き受けたからには責任を持って取り組む、それが規則というものですからね。このままで提出させるわけにはいきません。基礎から叩き込むつもりで徹底的にやらせていただきますよ」
「・・・ちっ」
思わず舌打ちをするシャイン。
ベインは呆れたような顔をした。
「やれやれ、人がせっかく丁寧に教えてあげると言っているのに・・・年下のくせに生意気ですね、相変わらず」
ブチッ!
本日2回目。
「何かにつけて私の事を年下言うのはやめろ!何度も言っているがそこまで離れてないお前に言われると無性に腹が立つんだ!!」
「何度も言い返していますが、私の方が早く生まれた事に違いはないでしょう?事実を言って何が悪いんです、シャイン?」
ニヤリ、という音がピッタリくるような笑顔でベインは言った。
「・・・ショックで人格変わるぐらいぶちのめしてやろうか」
「そんな事したらこの部屋が滅茶苦茶になってしまいますよ。片付けるの大変そうですよねぇ。それでも構わないならご自由に?でもまさかそんな事に」
「気付いていなかったら問答無用でやっている!!いちいち嫌味を言うんじゃない!!!」
「いいからとっととやりますよ。さっきも言いましたが、私だって暇じゃないんですからね。シャインだって早く終わらせたいんでしょう?なら言う通りにしてください」
「っ・・・・・・!」
余談だが、18歳2人が資料作成室にいた間。
この部屋の前を通った人は、皆同様に悪寒を感じたとか。