※SSL設定、かつ、沖田さんが女の子です。



女である、ということを、僕は意識したことがなかった。それはこの変な名前のせいもあるかもしれないけれど(総司、なんてどう考えても男の名前だ)、きっとそれだけじゃない。僕は、たとえそれが誰の性別でもあまり意識したことがないのだ。
なんとなく、自分は男っぽいのだろうな、と思うことがあって――性別に対する意識はその程度だった。

自分としては、別段、無理に男らしくしているわけではない。自然体でいればそれがあまり女らしくなかったという、ただそれだけの話で――女の子らしい服や小物はなんとなく違和感を感じてあまり使いたくないから、適当にどっちつかずのモノを身に着けていたってだけだ。
まあそれなりに身長もあったから、ズボンや男モノの服も似合ったし、基本は適当にユニクロで集めた服やもらいものの服を着まわし。
オシャレなんて特に気にしたこともない。ひらひらしたスカートは邪魔だから着たことがなくて、髪だってそのまんま、女にしてはちょっと短めの猫っ毛だ。
正直、見てくれに関しては特にこだわりもなかった。
服装で自己主張をするなど面倒の極みで、だいたいそんなもので人間性なんて測れる訳もない。僕は近藤さんに迷惑がかからない程度であれば他はどうでもよかった。

の、だが。

「(それがこんなに変わっちゃうなんて。むしろわかりやすいかな?)」

ちなみに今日の服装。
ふわふわゆれる軽いネットがあしらわれた、女の子っぽいチュールミニスカート。裾にサテンテープがついていて、身体のラインが綺麗に見えるだとかなんだとか、お店の人にいろいろ言われて買ってしまった一品だ。上は――まあ、今まで着ていたボーダーニットだけど、スカートの甘い感じをギュッと絞るみたいでなかなかオシャレだと思う。こげ茶のブーツも、姉から譲り受けたとても大人っぽいものだ。
…ふわふわ甘ーい感じの女の子らしいもの、には、まだ慣れないけど。だけど男モノとスカートを組み合わせるとなかなか女の子っぽく格好よく、それでいていつも通りの部分も残していて、なかなかいい技を教えてもらったと思う。

もともと僕、足はすらっと長くて、いい体つきをしていると変態っぽいおじさんに言われたことあるんだよね。だから、ちょっと女の子っぽい服を着たら、それなりに異性っぽい感じが出ると思うんだけど――。

「さーいとーくんっ」
「………」

さあ、どうだろうか。

斎藤くんは、そんじょそこらの男子とは違う。気配に聡いから、そうそう間抜けな声なんて聞けない。そう、たとえば背後からいきなり気配を殺して抱きついたって、「ぎゃあ」なんてそうそう聞けないのだ。まあ、でも、

「……ッ、」

それでも気配とは別の理由で慌てる彼を見ることができるから、僕はこんなことをする訳だけれど。

…気配に慣れっこな斎藤くんは特に抵抗もなく僕のハグを受け入れたが、それも一瞬で、声にならない悲鳴とともに僕を引き剥がした。
理由は簡単。
僕の胸の柔らかーい部分が彼に当たっていたから以外にない。

「な、」
「あはは!相変わらず、女の子には弱いんだねえ、斎藤くんってさ」

目を丸くして、顔を赤くし、弱ったようなその顔が面白い。女の子の胸なんて、まあこの年頃の男子なら一番気になるところだろうけど、触った経験のある子の方が少ないだろうし――きっと斎藤くんだってそうだろう――それにまあなんというだろうか、その中でも彼はこの年頃の男子にありがちな気張ったところも背伸びするところもなく、自然体のまま、ものすごーく、うぶで可愛い内面をさらしてくれちゃったりして。
彼はしばらくそのままふるると怒りにまかせて震えていた。まあ、ここまでは、言うのもなんだがいつも通りなのだ。想定の範囲内。そうじゃなくて、問題はここから――

「何の用だ、沖田。背後から近づくなといつも――、っ!」

よし。
僕の格好を見るなり派手にのけぞって目をそらす、彼の特別なリアクションに僕はとても満足する。
うん、思った通りだ。
彼はスカートからのぞく白い足を、視野に入れることが耐えられないらしい。
再三言うが、今日の僕はミニスカートである。下は一応スパッツ履いてるけどね。
――これで彼の弱点、もうひとつGET、かなあ。

「…た、確かに我が校は私服校だし服装もある程度は自由だが、丈はひざ下までと決められている」

生真面目にそう言う彼の頬は、やっぱりちょっと、赤い。気難しげに眉を寄せて「むっ」って感じの顔をつくってるけど――ストイックで格好いい、いつもの彼でいようという努力のアトは見えるんだけど――でもそのうえで頬が赤いから、まあ、なんていうか。
言っては申し訳ないが、とても可愛い。

「可愛いでしょ、このスカート」

ふわふわ可愛い色合いのスカートをつまんで、すすすすと引き上げる。目を見開いた彼はものすごくスカートを下に引っ張りたそうだったけれど、女性の衣服に手をかけるなど彼から言わせれば言語道断である。
朝、学校の廊下、人目は少ないけれど、いつどこでだれが見ているのかもわからない。
僕は調子にのって、さらにするするとスカートを引きずり上げた。

「沖田!」

慌てた感じで彼はそう僕を叱り、怒った顔で引き上がっていくスカートの下の素肌を、自分で持っている鞄を押し付けることで隠した。

「なあに」
「何、ではない。あんたはもう少し自分を大事にしろ」
「あっはは!可笑しいな、君にそんなことを言われても」

僕に女の子らしさなんて求められても困るんだ。僕は自分の身体になどそう興味は無い。まあ女と言うだけで男にとってある程度刺激になるのだということは、電車の中でたまに遭遇する変なおじさんや、道行く男の人の視線で感じているけど。でも僕がこんなことをするのは、彼に当てつけたいからだ。彼だけが特別だから、僕はこんなことをしている。

「…むしろ君に大事にされたいからこんなことしてるんだけどな?」

斎藤くんは赤い顔のまま、大きなため息をついた。ぎらついた視線で周囲を見回し、僕に注目するその他大勢の目を牽制する。彼のこういう目は本気で怖いから、誰も逆らえないだろう。

「沖田」
「うん」
「その衣服は減点対象だ。生徒指導室に行くから、ついて来い」
「…うん!」

僕は上機嫌で頷いた。彼と二人きりになれるのだ、僕が断る理由なんかない。
先を進む彼の腕に腕をからめてやろうと思ったけれど(ついでに胸を押し付けてその赤い顔を堪能しようかと思ったけれど)、残念ながらそんな隙が見当たらない。諦めて僕は、大人しく彼の後に続いた。













 て  け  カ  ト 
















†おまけの会話†


「なんなんだその格好は――何のつもりだ」
「え?えー、えへへ、それはまあ…好きな人にちょっとしたアピールっていうか」
「………」
「………」
「………」
「…え、えへっ」
「照れるくらいなら言わなければいいと思うんだが…」
「仕方ないよ、君が煮え切らない返事ばっかりするから悪い」
「それはそうだが、こちらにもそれなりに事情があってだな、」
「記憶がどうとかいう話はよくわかんないから繰り返さなくていいよ、どうせ無駄だし。それより斎藤くん、僕、この服に関する感想を聞いてないよ?僕の努力に関するコメントは?」
「………」
「………」
「………」
「………」
「…に…似合っている…だがとにかく丈が短いのが気に食わない」
「え、そうかなあ。これくらいみんなそうだけど」
「誰に見せびらかしているのだと気が気でないから止めろ」
「それは仕方ないよ。君専用のアピールポイントも用意してるんだけど、見せる機会がないんだもん」
「?それはどういう…」
「え、いや、勝負下着的な意味で――ちょっと斎藤くん、ドアはくぐりぬけれないと思うよ?頭からめり込むとか軽いコントだよ、何やってんの」
「………沖田。一つ聞きたい」
「なあに?」





「“生殺し”、という言葉を知っているか?」


















5万打企画リクエスト、ひな様より「SSLの沖田がもし女の子に転生していたら?」パロでラブコメ、でした。

ラブ…コメ…?
大いに疑問が残るところですが;;;
すいません、力尽きました…この設定は設定で楽しいですねv
ひな様、素敵なリクエストありがとうございました!